工場における静電気放電対策の重要性

空気の乾燥する冬場に発生しやすい「静電気」ですが皆様はどのような印象をお持ちでしょうか。日常生活を送る中で、パチッと感じるものから、自然現象である落雷も静電気が引き起こしている現象です。様々な場面で幅広く発生する静電気ですが、工場等の様々な機器や物質が混在する環境においては様々なトラブルを引き起こす要因にもなりかねません。
実際の工場内では年間を通して静電気トラブルを発生している事が多く有ります。
今回は、そんな「静電気」に対する対策について、詳しくご紹介させていただきます。

目次

工場における静電気放電対策の重要性

静電気とは

静電気は、物体が電荷を帯びた状態である現象です。摩擦や剥離によって電子の移動が生じ、正と負の電荷が発生します。異なる電荷同士は引き合い、同じ電荷同士は反発します。静電気は身体や物体に蓄積され、触れると感じるピリッとした感覚や火花が発生することがあります。静電気は日常生活でよく起こりますが、注意が必要な場面もあります。

静電気の原理

ご存じの様に物質は陽子であるプラス電荷と電子であるマイナス電荷で構成されています。(中性子については電荷に関係無いので割愛します)
静電気とは2つの物質が、摩擦したり剥離したりする際のエネルギーにより電子が物質間で移動しバランスが崩れて偏りが生じた状態のことです。静電気を帯びた物質は偏りを元に戻そうとする際に、電気が流れることを放電と言います。このバランスがどのような要因で崩れるかは、発生の原因によって様々に変わってきます。

静電気の原因

ここでは、静電気が発生する原理について、発生する原因に分けてご紹介させていただきます。

摩擦帯電

摩擦帯電とは、接触面同士がすり合わされることで静電気が発生する帯電現象のことです。身近な例ではセーターなどの衣類を脱ぐ際に発生する静電気が、この摩擦帯電によるものです。
発生物質:フィルム、紙、コンベアベルト、粉体 など

剥離帯電

2つの接触している物質が剥がれることで静電気が発生する帯電現象のことです。身近な例では保護フィルムなどのフィルム製品を剥離した際にフィルムが手にまとわりつく現象は、この剥離帯電によるものです。
発生物質:プリント基板、フィルム、保護シート、紙、衣類 など

誘導帯電

静電誘導によって静電気が発生する帯電現象のことです。既に帯電している素材に別の素材を近づけると一部の電荷が他の物体に引き寄せられ、電荷の偏りが生じます。帯電した素材の反対極性のイオンが表面に集まることで帯電する現象です。
発生物質:帯電物質に対面した導体

接触帯電

2つの物質がぶつかりあうだけで、片方のマイナス電荷がもう一方に移動することで静電気が発生する帯電現象のことです。静電気と言われると摩擦による帯電現象をイメージしがちですが、接触帯電のようにぶつかり合うだけでも静電気は発生します。
発生物質:帯電する様々な物質

転がり帯電

回転体が他の物体の上を転がったときに静電気が発生する帯電現象のことです。巻取り機といった、回転体を活用した機器を使用する際に発生しやすい帯電現象となります。
発生物質:回転体

噴出帯電

ノズルやホースから液体・高圧ガスなどが噴出する際に静電気が発生する帯電現象のことです。
発生物質:空気、蒸気、加圧液体、塗料、粉体 など

静電気によるトラブル

静電気によるトラブルは様々にございますが、工場などの製造現場における放電のトラブルについて、詳しくご紹介させていただきます。製造現場における静電気のトラブルは主に「力学現象によるトラブル」と「放電現象によるトラブル」に分けられます。

力学現象によるトラブル

ダストの付着による接点不良や塗装ムラなどの「機能障害」や、ワーク同士の付着による部品詰まりや成形部品の排出ミスといった「生産障害」が力学現象によるトラブルの代表例です。

ダストの付着による接点不良や塗装ムラ

・検査機器のレンズ面にダストが付着し、本来の性能が発揮できない
・リレー接点にダストが付着し、接点不良が生じてしまう
・塗装面へダストが付着し、均一な塗装ができない
⇒「機能」に障害が発生してしまう

ワーク同士の付着
・ワーク同士が付着し、パーツフィーダーで部品詰まりが発生する
・ワーク同士が付着し、成形部品等の排出がうまくできない
⇒「生産」に障害が発生してしまう

放電現象によるトラブル

放電現象によるトラブルは主に半導体回路内で静電気による放電が発生し、急激な電流が流れることによりデバイスや回路が損傷し発生します。「人体帯電モデル」「マシンモデル」「デバイス帯電モデル」の3つのモデルに分けることが出来ます。

人体帯電モデル
人体が帯電した状態で、半導体回路などのデバイスに触れた際に急激な放電が発生する。
帯電した人体が触れて電荷を帯びたデバイスが接地されることで、回路に放電電流が流れて静電気により回路が破壊されてしまう。

マシンモデル
帯電した導電体がデバイスに触れたときに、急激な放電が発生。
デバイスが接地されることで、回路に放電電流が流れて静電気により回路が破壊されてしまう。

デバイス帯電モデル
帯電したデバイスが導電体に触れたときに、急激な放電が発生。
半導体デバイス表面の摩擦などによりデバイス自体が帯電し、この状態でリードが接地されることで、回路に放電電流が流れて静電気により回路が破壊されてしまう。

人間は、2,000V~3,000V以上の帯電レベルにならないと放電を感じないため、静電気対策を実施していないIC半導体関連の製造現場等では、気づかないうちに静電気による不良品を作ってしまっている場合も多くございます。様々な原因で、気づかないうちに発生する静電気であるからこそ、しっかりと対策を実施することが重要となります。
出荷検査時には良品判定されていても、静電気により工程内でダメージを受けている場合には出荷後に早期故障クレームとなる場合も有ります。

静電気対策

静電気対策の基本は、「静電気帯電量を小さくすること」です。些細な原因でも静電気は発生してしまうため、発生を抑える事は非常に難易度が高くなります。「静電気の発生量そのものを減らす」または、「静電気を逃がす」の2つの考え方が重要となります。

静電気の発生量を減らす

静電気の発生量を減らす対策を3つ紹介させていただきます。

1,接触させない・剥離しない
接触面積や接触回数を減らすことで、帯電の原因を極力なくす対策。
ゆっくり剥離することで、電荷の移動を抑制する対策。

2,接触する部分の材質を工夫する
摩擦帯電系列や帯電のバランスが近い材質を選定することで、電荷の移動を抑制する対策。

3,高電圧発生部に近づけない
高電圧発生部をシールドする、高電圧ケーブルの取り回しに注意するなど高電圧発生部に極力近づけないことで、誘導帯電を防止する対策。

静電気を防止する

静電気を逃がす対策を3つ紹介させていただきます。

1,接地する
最も基本的な静電気対策となります。静電気をアースに逃がすことで発生を抑制します。
絶縁体ではアースに静電気がながれないため、不向きの対策となります。また、接地する必要があるため移動体にも使用できません。

2,帯電防止剤(界面活性剤)を塗る
搬送装置などに有効な対策となります。静電気の発生が見込まれる部分に界面活性剤などの帯電防止剤を塗ることで静電気が空気中に逃げやすくなります。ただし、時間と共に効果が薄くなってしまうため、注意が必要です。移動するワークには塗ることが出来ない点も難点です。

3,加湿する
静電気は乾燥により誘発されやすくなるため、工場内や装置内全体を加湿することで静電気の発生を抑制します。腐食や結露といった副次的な影響を引き起こす可能性もあるため、対策には注意が必要です。

静電気を中和する

イオナイザーなどの専用の機器を用いて、物質にイオンを当てて、静電気を中和することでトラブルを防ぎます。
任意の箇所に効率的に対策を実施できるため、工場内などの特殊な環境においては最も効果的な対策となります。他の対策では対応が難しかった「絶縁体」「移動体」にも効果があるため、様々な場面で採用することが可能です。効果を最大化するために防止対策と併用して実施される場合が多くございます。

適切な対策の重要性

様々な場面で、様々な原因で発生してしまう静電気の対策を実施するには、用途に応じた適切な対策を実施することが非常に重要となります。工場における静電気の対策はイオナイザーを活用することが一番効果的ですが、イオナイザーの適切な選定には静電放電対策の知識が必要となります。
例えば、パルスAC方式や高周波AC方式等のイオン発生方式の違うイオナイザーの使い分けが重要です。
イオナイザーメーカーに選定を全て任せてしまうと、必要以上のスペックの機器を購入し、不必要な費用が発生してしまう場合もございます。

静電気放電対策の正しい知識と、豊富な実績を有した専門家に相談し、適切な対策を実施することが最も大切です。

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